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これでは尖閣の空は守れない

 日本政策研究センター 月刊誌「明日への選択」の記事です。

 

 簡単に言うと、岩屋外相は、「尖閣の制空権を中国に譲り渡していた。」というお話です。

 

 詳細な内容は、記事をお読みください。

 月刊誌「明日への選択」のご紹介ページにも同記事を掲載します。

 

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〇日本政策研究センター🔗これでは尖閣の空は守れない


これでは尖閣の空は守れない

 

 通常国会が終盤を迎え、参院選で与党が過半数を維持できるかどうかが話題となるなか、中国は六月初めに「遼寧」「山東」の二隻の空母を中心とする艦隊を太平洋に展開した。「遼寧」は中国が米軍の台湾増援を阻止ラインとする「第二列島線」(小笠原諸島からグアム島を結ぶ)を初めて越えた。また「山東」を監視していた海上自衛隊のP3C哨戒機に艦載機が異常接近するという事件も起こった。

 

 一方、これは五月のことだが、尖閣諸島でも深刻な事態が起こっていた。五月三日、日本の民間機が尖閣諸島に接近した際、中国海警が日本の領海に侵入し、海警船から飛び立ったヘリが領空を侵犯。民間機は引き返し、沖縄本島から航空自衛隊のF15戦闘機が緊急発進したが、領空侵犯したヘリは空自機到着前に帰着していた。

 

 外務省は領空侵犯を一応抗議したが、事件の十日後になって岩屋外相は民間機の飛行計画を事前に察知して中国を刺激しないように尖閣への飛行の自粛を求めていたことを明らかにした。日本の民間機が尖閣上空を飛ぶことに何の問題もない。にもかかわらず、政府が民間機に自粛を求めたわけで、民間機を口実にしてヘリを飛ばし、中国こそが尖閣を領有する国だと主張する中国の「認知戦」に外相自らはずみをつけてしまったと言える。

 

 中国軍機の「あおり運転」とも言える危険極まりない行動には抗議ではなく謝罪要求が必要だろうが、尖閣の領空侵犯事件にはもっと深刻な問題がある。それは領空侵犯対処の法制の問題で、領海と違って領空には「絶対的な領空主権」があり、外国の航空機が許可なく他国の領空に侵入することは「領空侵犯」となり、国際法上は違法とされる。

 

 そのため領域国は①侵犯の恐れがあれば警告し、②領空侵犯が行われた場合には退去を命令し、③必要な場合には着陸命令や強制着陸もさせられるというのが国際慣例だが、それでも従わない場合には④威嚇射撃、⑤撃墜も国際法の基本的な考え方であり、二〇一五年にはトルコがそうした手順を踏んでロシア軍機を撃墜している。

 

 自衛隊は自衛隊法84条で「領空侵犯に対する措置」という任務は与えられているが、③までの措置しか規定されておらず、威嚇射撃や撃墜は規定されていない。

 

 そこには自衛権の発動としての「武力行使」と警察権としての「武器使用」を区別するという日本特有の法解釈の問題がある(ここでは詳しくは触れない)。そのために防衛出動が発令されていない平時において空自機は侵犯機に対して警察権としての「武器使用」しかできない。武器が使えるのは「侵犯機が実力をもって抵抗する場合」、「国民の生命及び財産に対して大きな侵害が加えられる危険」が迫っている場合などに限られることが政府見解として国会で明らかにされている(平成十一年五月・防衛庁長官答弁)。

 

 相手が「抵抗する」ケースにはミサイルを発射する場合が当然含まれるが、それは自衛隊員の生命を危険にさらすことを意味する。侵入機が地上に爆弾を落とすかどうかをパイロットや現場部隊に判断をさせるのだろうか。こんなバカげた時代遅れの対領空侵犯措置は国際法に沿って今すぐ見直すべきだ。

 

 今のままだと、F15戦闘機でも沖縄本島から尖閣まで30分程度かかり、到着してもヘリは着艦してしまうことになる。その意味でヘリやドローン対処は難しい。

 

 中国海警船による尖閣領海侵犯は今年に入って十六日。海警船が領海を走り回り、上空を海警のヘリが飛び回る。そうなれば実効支配とは言えなくなるのではないか。今回の事件は一日も早い有人による実効支配を求めていると言える。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』令和7年7月号〉