· 

吉田松陰 日本救国の天使 (3)

吉田松陰 日本救国の天使(3)

 

日本の日本たる所以・天皇国日本の尊さ

 

さて、 自宅謹慎の処分となってから、 いよいよ松下村塾の教育が始まります。 ここで教育がおこなわれた期間はわずか二年四ヶ月程で、 学んだ人は百人にもなりません。  ところが、 ここから長州を動かし日本を動かす偉大なる人材が巣立ったのです。 塾と言っても最初は八畳一間で、 その後十畳半を足しただけの粗末な掘っ立て小屋です。  しかし、 その教育の中身が違いました。 松下村塾にこめた松陰の願いがこれです。

 

松下(しょうか)(ろう)(そん)といえども誓って神国(しんこく)(みき)たらん」

 

松本村という、 とるにたらぬ田舎の塾です。 しかし、 必ずや神国日本を支える幹となる。 これが松下村塾で教育を行う吉田松陰の決意です。 そして実際、 その通りになりました。 ここで学んだ人達はどういう教育を受けたのか。 なぜ、 日本を動かす偉大なる人物が輩出したのか。 吉田松陰はどういう教育を行ったのでしょうか。

 

吉田松陰は松下村塾で 「皇国の皇国たる所以(ゆえん) 「人倫の人倫たる所以」、 そして 「国家の危機」 を教えました。 松下村塾で教えたことは、 この三つです。

松陰は皇国日本の国体の尊さと日本人としての自覚と誇りを徹底的に教えました。 日本の日たる所以、 日本人の最たる誇りとは何でしょう。 それは国家の中心に天皇陛下がいらっしゃるということです。 皇室をいただいていることのこの上なき尊さ、  有難さ。 これを松下村塾の教育で吉田松陰は万言を費やして説きました。 これは今の日本人が一番忘れていることであり、 敗戦後日本人が一番忘れさせられてきたことです。 また戦後教育で最も避けてきたところでもあります。

 

天皇、 皇室の存在は時代に逆行する非民主的な封建的遺物でこんなものは不要であり、 アメリカのような自由民主主義国かソ連や中国のような全員が平等の社会主義・共産主義国家にした方がよいという誤った教育が堂々とまかり通ってきました。

今の皇室は遡れば初代天皇が神武天皇です。 神武天皇から百二十五代今上陛下まで血が繋がっております。 そのような国は世界のどこにもありません。

 

現在のイギリス王室にしても、 成立してから三百年も経っていません。 清教徒革命でクロムウェルが国王を斬首して一度王制を廃しており、 今のイギリス王室の血はそれ以前の王室とは断絶しております。 建国以来二千年以上も一系の血筋が続いている王朝をいただいている国は日本だけです。 これが誇りでなくてなんでしょうか。 この日本人の誇りを吉田松陰は徹底的に教えたのです。

 

いま、 外国の人から日本の国と天皇について教えてほしいと言われたら、 特に若い人はみんな言葉に詰まってしまいます。 恥ずかしいことです。 世界に類例のない 日本の皇室の素晴らしさについて説明できなければ、 外国人は日本を理解できず、  日本人を尊敬できません。

日本は建国以来一系の天皇をいただき、 革命による断絶のなかった世界唯一の国です。 なぜ革命がなかったのか。 実に不思議です。 わが国の皇室のあり方は西洋やシナの王室のあり方とは、 根本的に異っております。

 

松本清張という小説家がかつてこう言いました。

「天皇家を超える実力者は多く現れている。 特に武力をもつ武家集団、 (たいらの)(きよ)(もり)でも(みなもとの)(より)(とも)でも北条氏でも足利氏でもまた徳川氏でもなろうと欲すればいつでも天皇になれた。 なのにそれをしなかった。どうして実力者は天皇にならなかったのか。 誰もが知りたいことだが、 歴史家はこれを十分に説明してくれない。 学問的に証明できないのだという」

 

天皇、 皇室がなぜ断絶なく続いてきたのか、 これこそ日本歴史における千古の疑問であります。 その根本的理由は結局、 皇室ご自身のご努力にあります。

天皇は常に国家の安泰と国民の幸福を切に願い、 「国安かれ民安かれ」 との祭祀、 まつりをなされてきました。 天皇陛下の一番大切なお務めは祭祀です。 一年中、 祭祀が厳修されています。

また古事記、 日本書紀の記述にあるように、 天皇は昔から国民のことを (おお)御宝(みたから)  と呼んでこられました。 「大御宝」 というのが正式な日本国民の呼び方です。 歴代天皇は国民に対してこういう思いでのぞんでこられました。 国民を宝のように(いつく)しみ大切に思われてきたのです。 そして常に修養を積まれ厳しい自己反省につとめられ、 ことに国難、 危機に際してはご一身を投げ出されその打開に尽力されました。 それゆえ国民は、 このような天皇を心より敬愛し仰慕し、 忠誠を尽してきました。

 

このように日本は、 国王と国民が対立し、 相争ってきた国ではなく、 天皇と国民が真に信頼し合い、 力を合わせ一体となって立派な歴史と伝統を築き上げてきた国なのです。 この世界に比類のない尊い日本の国のあり方、 これに対する自覚と誇りを教えたのが吉田松陰です。 尊皇(そんのう) の心を百万言を費やして教えたのです。

 

志士たちが明治維新に命を捧げて立ち上ることができた原動力は、 この日本国体の尊厳(そんげん)に対する自覚と誇りにありました。