参議院選挙で自民党は歴史的な大敗北を喫した。三年毎に半数が改選される参議院選挙で非改選の議席を合わせても過半数に達せず、衆議院に続いて参議院でも少数与党となった。衆参ともに与党が過半数を割れば政権交代まで後のない崖っぷち状態である。何も決められない国会が続き、政権は安定しない。まさに日本は「混沌」状態となる。
選挙の詳細な分析はまだできないが、自民党票の激減ぶりには驚かされる。比例選を例にとれば、自民党の得票は三年前の1826万票から1281万票へと545万票も減っている。獲得議席も18から12へと6議席も減った。
逆に国民民主党は前回の316万票から762万票に増やし、参政党は177万票から何と743万票と4倍の比例票を獲得している。まさに自民党から逃げた票が参政・国民に流れたと言える。
では、自民敗北の最大の原因は何か。選挙の目玉政策を作れず消費税減税に反対したというだけでなく、そのリベラル化にあるというのが筆者の見立てである。既にLGBT理解増進法に賛成するなどリベラル化が進んでいた自民党だが、石破政権のもとでも夫婦別姓問題は党内は別姓反対・通称使用派が大勢を占めるにもかかわらず自民党案を提出できず、安定的な皇位継承を巡る各党協議は立憲民主がブレーキとなって取りまとめられなかったが、石破首相がその調整にリーダーシップを発揮した形跡はない。
個人的な政治信条とは言え、夫婦別姓が持論であり、同性婚にも賛成、さらには女系天皇も容認可能とする石破首相と、立憲民主の野田代表の主張とはほとんど違いはないのではあるまいか。こんな総裁を選んだ自業自得という他ない。
一方、これまでであれば自民党から離れた自民批判票は野党第一党の立憲民主が受け皿となるケースが多かったが、立憲民主の比例票は微増しただけで、今回は国民民主に、さらには参政へと流れ、立憲民主はまさにスルーされてしまった。その結果、比例投票先では自民、国民民主、参政の次となる第四党へと転落してしまった。
こうした選挙結果を見て自公体制から多党制、つまり連立となるとの予測が強い。「自公政治から連合政治への転換点」(朝日・牧原出東大教授)という楽観的な見方もあるが、そうなれば「予算案や法案を通すための政策協力から連立の拡大まであらゆる手を尽くさねばならない」こととなり、その際、減税や給付といった「近視眼の選挙対策が交渉材料となりがち」(日経・佐藤理政治部長)となることは眼に見えている。
問題は、連立ではそうした混迷のなかで重要な政治課題が見逃されがちとなることにある。国防など安保戦略であり、エネルギー戦略、社会保障といったまさに国家の基礎に関わる課題である。なかでも、台湾への軍事的威圧を強め、尖閣諸島での主権を脅かし、日本人を不当逮捕する中国にどう対峙するか、といった対中戦略での一致がなければ連立は直ちに行き詰まると言えよう。
こうして見ると、今回の選挙はそうした重要課題がほとんど論じらなかったことに気づく。あまり報じられてはいないが、日本記者クラブでの討論で、立憲が主張する「安保法制の違憲部分の廃止」について、どこを廃止するのかと聞かれた立憲民主の野田氏は「政権をとったら検証する」と答えた。何とも無責任な話ではあるが、こんな政党に政権参画の資格はない。
それだけに自民党に期待するのだが、今、危機感をもった議員や県連が「石破降ろし」を始めている(本稿執筆時)。一日も早く「日本を取り戻す」構想と政策をもった新総裁を選ぶことを期待したい。すべてはそこから始まる。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)
〈『明日への選択』令和7年8月号〉